開館30周年を迎える京都の小劇場「アトリエ劇研」がプロデュースする演劇作品の第1弾は、京都を拠点に活動する劇作家・田辺剛と演出家・山口茜の初めてのコラボレーションによる『舟歌は遠く離れて』です。田辺による寓意性の強い独特な劇世界を山口の演出がさらに奥行のあるものにします。劇団☆新感線の村木よし子をはじめとする実力派の俳優やダンサーの出演は、また別の化学反応を起こし、従来の田辺剛作品とも山口茜作品とも違う舞台空間をつくるでしょう。京都限定の貴重なステージにぜひご注目ください。
[脚本]
田辺剛(下鴨車窓)
[演出]
山口茜(トリコ・Aプロデュース)
[出演]
村木よし子(劇団☆新感線)、日詰千栄、藤原大介(劇団飛び道具)、竹ち代毬也、ファックジャパン(劇団衛星)、飯坂美鶴妃、田中次郎、松木萌
[スタッフ]
照明/池辺茜(GEKKEN staff room)
音響/椎名晃嗣
舞台美術/小西由悟
舞台監督/浜村修司(GEKKEN staff room)
衣裳/南野詩恵
主催/NPO法人劇研、アトリエ劇研
助成/芸術文化振興基金
ディレクターより
当時韓国に住んでいたわたしは、死期が近づいた父に会うために釜山から福岡へ船で渡った。わたしがやって来たことで久しぶりに家族全員が揃い、それで安心したのかその数時間後に父は亡くなった。慌ただしく葬式を終えたわたしは再び船で韓国へ戻る。その船中、わたしはいったいどこへ行ってどこへ戻ろうとしているのか分からなくなるときがあった。父の見舞いのつもりで死に目に会い、それはそれで良かったと思うのだけれど、その帰路わたしは何を背にして船に揺られているのか。あらゆる「何のために」が一瞬宙に浮いた気がして、強く戸惑ったことを覚えている。
船に乗るのは生ける者だけではない。カフカの未完の作品に、小舟に乗せられた死体が川をつたってある町にやってくるというものもあるし、三途の川を渡る船もある。生き死にを考える舞台としての「船」がある。わたしにとって特別な思い入れがあるこの作品を山口さんが知ってか知らずか選んでくれたのが嬉しかったし、なにより彼女にわたしの戯曲を演出してもらうのはわたしの夢だった。そしてユニークな俳優陣によってどんな舞台になるのかとても楽しみだ。
アトリエ劇研ディレクター 田辺剛