いま、ここから見えるもの
開館して再来年で30年になるアトリエ劇研は、京都の、しかも繁華街から外れた場所から、この街で生まれてくる表現を見続けてきた。幸せなことに、この地ではさまざまな表現が開館当時からいまでもなお生まれ続けている。もちろん海外も含めた他地域からの作品もあるけれど、できるだけその来訪によってかの地とこの場所が地続きになるように、当劇研は受け入れ、地元に紹介し交流を図っている。
いま、ここから見えるもの。把握できない多量の情報が氾濫し何がどうなっているのか分かりにくいのは、舞台芸術の世界でも同じことだ。舞台作品の上演が一片の情報として流通するだけにならないよう、また灯台の下の暗がりで見失われないよう、この場所から実際に見渡せるところで起きている表現や作品に注視したいし、それがこの劇場の役割だと思っている。
アトリエ劇研ディレクター 田辺剛
フェスティバルのサイトを始めました
地域の小さな民間劇場に何ができるのかをいつも考えます。事業のための予算などあるはずもなくすべてをゼロから始めなくてはならない。にもかかわらず二年に一度の開催が単なるルーティーンになってしまいそうな危うさ。だったらやめてしまうのも手ですが「やめる」という発想にはなかなかなりません。
参加団体はどの団体もこの劇場で公演することに興味をもってくれました。劇研での上演は、下鴨車窓はともかく(当劇研の専属カンパニーなので)、ピンク地底人は何度かありますが、それ以外は初めてです。この場所に向く興味がいくつかあるならば、それらが強く結びついたときに、何かこの場所の存在意義のようなものが浮かび上がるのではと今は思っています。フェスティバルというのは、少なくともうちにとってはそういう点でやるべきものではないかと、そうでなければいつまでもただの「貸し小屋」に過ぎないような気がして。
今まで「演劇祭」と呼んでいたものを「舞台芸術祭」と名前を変えたのも、もう少し大きく踏み出したいと思ったからです。およそ二ヶ月のフェスティバル、どうぞご期待ください。
アトリエ劇研ディレクター 田辺剛