撮影:鈴木トオル
僕らを引き裂く
何が?
愛が。
[ある日の出来事]
昨日、宇宙人のS君から10年ぶりに連絡があり、近所のファミレスで会うことになった。
ウェイトレスがやってきて、僕はチーズハンバーグを注文し、S君はカニ雑炊を注文した。
久しぶりに見たS君は、大学生の時と比べて明らかに銀色が増しており、彼の顔面の7割を占めたブロンズのニキビもすっかり消えて、大人の宇宙人の顔になっていた。
我々は時を忘れて、宇宙や地底の近況を語り合った。
S君はそろそろ地上侵略がしたいのだと云う。
僕は随分と前にその夢は失っていたので、なんだか絵空事のようだった。
手を貸してほしい。地底人の力が必要なんだ。
最初は笑って誤魔化していた僕だったけれど、途中から彼が真剣だということがわかってきた。
S君が言う。計画がね。あるんだよ・・
ピンク地底人、初の既成脚本に挑みます。
作品は「イキウメ」前川知大氏の「散歩する侵略者」
公募オーディションで迎えたキャストを迎え、地底人独特の手法を用いながら新たな作品を創りあげます。
乞う、ご期待くださいませ。
[作]
前川知大
[演出]
ピンク地底人3号
[出演]
クリスティーナ竹子
ピンク地底人6号
浅田麻衣
片桐慎和子
クールキャッツ高杉(イッパイアンテナ)
小嶋海平(イッパイアンテナ)
勝二繁(劇団テンケテンケテンケテンケ)
田米克弘
辻崎智哉(Q2-Quiet.Quiet-)
諸江翔大朗
[スタッフ]
演出助手/脇田友
舞台監督・美術/さかいまお
照明/吉田一弥(GEKKEN staff room)
音響/森永キョロ
宣伝美術/cursor(カーソル:岡田ゆうや、みやあきみさ)
映像記録・写真/竹崎博人(Flat Box)
制作/浅田麻衣、ピンク地底人5号
2月15日(金)19:00
2月16日(土)11:00/15:00/19:00
2月17日(日)14:00/19:00
2月18日(月)14:00/19:00
一般 前売2,500円/当日2,800円
学生 2,000円(前売・当日ともに)
・ピンク地底人
・http://www.geocities.jp/pinkundergrounder/
・pink_chiteijin_123@yahoo.co.jp
・GF8チケットセンター
・アトリエ劇研 075-791-1966(10:00~18:00)
ピンク地底人について− 『マリコのために』から
その劇の冒頭、舞台上に"街"を造形するのに、街の音を再現することだけでやってみせた『マリコのために』はとても印象的だった。しかもその音は録音したものではなく出演者が自分の声で再現する。そこではさまざまな音が発せられ、ふだんは無自覚な(そうだと気づかされる)音もあるだろう。もちろん12人が一斉に街の音を発すれば、もはや聞く側はすべてを把握できない。けれどもこの"把握できない"ということが大切で、つまり世界はわたしたちが五感で分かる向こう側にも続いているということであり、この演出はそこを捉えたのだと思った。 主人公の男には妻がいるが、彼女は失踪している。淡々と毎日を過ごす彼の、会社へ通う行き帰りに何人もの「マリコ」の名が聞こえる。おそらくそれは妻の名でもあるが、彼は妻とは別人の「マリコ」が近くで呼ばれても聞こえないことがある。もしかすると聞こえていて反応しないのかもしれない。男が反応せずにただ「マリコ」の名が呼ばれるだけの場を観客は見ることになるのだけれど、それは男の意識が外見の無反応ぶりとは裏腹に、実は「マリコ」を必死に探し求めている描写だとわたしは思い、とても惹かれた。
失われた人の名前が街に拡散している。拡散した名前はいつも聞き間違えられる。名前を聞いてその人かと思って振り返るけれどもそれは別人であるという繰り返しだ。わたしたちが失ったものを探すときは、いつもそうした勘違いに振り回されることになる。「マリコ」の名が街の無数の音に混じってそこにある。どんなにその名が呼ばれても、むしろ呼ばれれば呼ばれるほどに、本当の「マリコ」の喪失がたしかなものになる。その逆説の提示は見事だった。
ピンク地底人は”演劇”に挑み続けている。その姿勢はさらに深化しているようだ。今回のフェスティバルでもそんな舞台を楽しみに待ちたい。
アトリエ劇研ディレクター 田辺剛