撮影:清水俊洋
下鴨車窓は、創作の拠点としている劇場「アトリエ劇研」にて新作公演を行います。いつもは5人程度の登場人物であることが多い田辺の作品ですが、今回は12名の俳優が演じます。さまざまな登場人物たちによるドラマの断片がやがて閉塞した社会のありようを浮き彫りにしていくという、今までの田辺作品にはない手法で物語を紡いでいきます。ご期待ください。
知らない時代の、遠い世界の話。
立ち入りを禁じられた山の奥にその塔はあるらしい。それはずいぶん昔からあるようなのだが詳しいことは村の誰もよく知らなかった。塔のあたりはいつも霧がかっているようで視界が悪く、塔の姿もよく見えないらしい。霧だけのせいじゃない、塔から煙が出ているのだと言う者もいるがそれも確かめられたわけではない。煙が塔を覆っているのか塔から煙が出ているのか、あるいはその両方なのか。何一つ確かなことが言えないのでふだん村人のあいだで塔のことが話題になることもないし、山の向こうに隠れて見えないので意識することもなかった。ただ、立ち入ってはいけないということだけだ。
しかしその日は確かに違った。山の近くに住む者が音を聞いたのだ。まだ未明のこと、その者は塔の方から聞こえる音で飛び起きたのだった。
[脚本・演出]
田辺剛
[出演]
高杉征司、岩田由紀、飯坂美鶴妃、合田団地
大沢めぐみ、藤本隆志、芦谷康介、中嶋やすき
新田あけみ、松田裕一郎、曽田伸一、水月りま
[スタッフ]
舞台監督・舞台美術/川上明子*
照明/魚森理恵*
音響/小早川保隆
*=GEKKEN staff room
1/31(木)19:15
2/01(金)19:15
2/02(土)14:00/19:00
2/03(日)14:00
2/04(月)14:00/19:15
2/05(火)14:00
一般 2,500円/ユース 2,000円
ペア 4,200円
Web割 2,000円[1/23(水)24:00まで]
※ユース は25歳以下の方を対象にした料金です。
※運転免許証など年齢を示す証明証を受付でご提示ください。
※ペア は2枚1組でチケットを購入されるときの料金です。
※観劇日時は別々でも構いません。
※Web割 は、1/23(水)24:00を期限にWeb上でご精算いただく際の金額です。
※予約ページでご選択いただけます。
・下鴨車窓
・http://tana2yo.under.jp/
・shimogamo@gekken.net
・GF8チケットセンター
・アトリエ劇研 075-791-1966(10:00~18:00)
下鴨車窓について−自己紹介として
「現代日本からは場所も時代も遠く離れた世界」という書き出しで戯曲を書くようになってからずいぶんと経つ。わたしたちの日常に近い風景を写実的に描写するのではなく、そうした架空の世界に生きる人々の物語を紡ぐやり方で劇作を続けている。虚構性の強い物語に、大げさに言うと、わたしは演劇の可能性を見ているのだが、その虚構性を支える一つの柱が冒頭に記した書き出しの文言だ。
登場人物に名前が無いというのは、一つは物語の舞台がどこなのかを宙ぶらりんにするためでもあるが、さらに大切なのは、そうすることで物語が登場人物らの"人間関係"を軸にせずに済むということでもある。わたしたちの日常生活を思ってみても、人間関係のありようはそこでお互いが相手の名前をどう取り扱うのかにかかっている。相手を名前で呼びかけるのか、呼びかけるならどんな呼びかけ方なのか、呼び捨てか”さん”付けか……。人間関係の変化もその呼びかけ方の変化に現れる。名前はただの記号ではないのだ。
しかしわたしの作品では誰もが相手の名前を呼ばない。そうすると人間関係の糸はどうしても透明になるし、その先に何が見えるのかといえば、それはいつもならば物語の背景と見られる、登場人物たちがよって立つ"場所"だ。わたしはそれを広い意味で「土地」と呼ぶけれども、刹那に変わる人間関係に比べて土地はほとんど変わることなく人間の前に、否、下にある。どこか分からないのにその土地に強く焦点を当てるということ。その時に物語の虚構性が炙り出されるのではないかと考えている。
新作の出演者は10人を超える。今までは5人前後の少数によるものだったけれど、多人数でもって、というより多人数だからなおさら曖昧模糊とした共同体(村とかサークルとか)の話をつくってみたいと思う。多人数なので名前を呼び合わないのも難しいがなんとか乗り越えたい。
下鴨車窓/アトリエ劇研ディレクター 田辺剛