HOME > 劇場紹介 > director2





DSCF2409.JPG

アトリエ劇研ディレクター前任 田辺剛(2011年8月1〜2014年8月31日)

退任のご挨拶

 このたび8月末の任期満了をもちまして、ディレクターを退任いたします。いつも当劇研にお越しいただく皆さま、また当館の活動にご協力いただいています皆さまにこの場を借りまして御礼申し上げます。ありがとうございました。
 2000年にこの劇場にスタッフとして加わりました。それから14年余りです。最後の6年はディレクターとして劇場の運営にあたりましたがまだまだ道半ばという思いが強くあります。劇場としては今年で30年を迎えていますが、多くの作品が上演されたこの場所と、その価値をどのようにして守り育てていくか、がわたしの大きな課題でした。京都という小さな街でも舞台芸術をめぐる環境の変化は、特にこの10年は大きなものがあり、その変化にうまく対応する必要もありました。
 2012年に開催した第8回アトリエ劇研舞台芸術祭では参加団体を初めて公募して、さまざまな地域から応募いただきました。京都という土地への関心の高さを目の当たりにしてそうした思いの受け皿として、改めてこの劇場の役割を意識しました。一方で地元の京都で活動するアーティストによる劇場利用は減る傾向にあります。ひと昔前と比べて上演できる場所が増えていることもあろうかと思いますが、アトリエ劇研が地元地域に果たしてきた、そしてこれから果たすべき役割も考え直す時期にあるように思います。
 そうしたこれからの課題には次期ディレクターのあごうさんに引き続きあたっていただくことになりますが、今後とも当劇研をどうぞよろしくお願いいたします。
 お世話になりまして本当にありがとうございました。


ディレクターの言葉

2011年8月9日 アトリエ劇研ディレクター 田辺剛


 わたしが初めてこの劇場へ来たのは大学生の頃で、今の駐輪場のところにはみんかの一般の家屋が残っていました。そこに薄暗い事務所があって、甲高い声で眼光の鋭いおばさんに「学生? なんて劇団?」と聞かれたのを覚えています(その人こそが演劇プロデューサーの故遠藤寿美子さんでした)。演劇を始めて間もないわたしは、日常生活では出会わない場所に踏み込んだような、自ら訪ねて行ったのに迷い込んだような、そんな気分になりました。
 劇場の部分は当時のままですが、外見は当時とずいぶん変わりました。けれどもこの劇場の役割は今でもたいして変わっていないのだろうと思います。交通の便が良いとはお世辞にも言えない小さな劇場ですが、ブラックボックスで天井が高くて、このサイズの劇場でこうした空間を持つところは京都・関西には他にないだろうという自負はあります。ここで新進気鋭の表現者たちは舞台作品を上演しています。腕を磨き、議論をし、挫折する者もいればより大きな活躍の場へ移る者もいる。表現することに憑りつかれたような者たちがあちらこちらから集まっては去っていく、そんな場所がここです。
 「アトリエ劇研」というのも劇場の名前にしてはちょっと珍しいと思うのです。演劇研究会のことを「劇研」と縮めて言うことがありますが、それと同時かその前に、ここは「アトリエ」であるということ。上演という実践を繰り返しながら、舞台芸術について考えをめぐらす場所なのだとわたしはこの名前を理解しています。
 どんな表現者も始めた頃は観客も少なくて、だからこの劇場の60くらいの客席の広さはちょうど良いのだと思っています。誤解を恐れずにいうならば、どうせ観客は来ないのだから、まだ観られないうちにできることをやり尽くしてしまえばいいと思っています。地味な作業で結構。ピアニストが毎日ハノンを弾くように、野球選手が毎日素振りをするように、そんな作業をする場所としてここはある。そうして、他とは換えられない表現が生まれてくるのだろうとわたしは思います。
 一方で舞台芸術を生業にすることを目指さない人たちにもこの場所は開かれていたいと思います。楽しみとしての表現活動が人生を豊かにする、そうした機会は昨今の日常からはいよいよ失われていくばかりです。せめて劇場という場所だけはそういうことが可能でありたいと思います。
 また、さまざまな好奇心を持つ人々が集まるこの場所で、そうした彼らの表現を観るということもまた好奇心の強い現れであるはずです。既存のメディアにとらわれない多様な表現について関心を持ち観てみたいと思う人々に、ここで何が起きているのかをしっかりと伝えていきたいと思います。
 多くの人々が集まり、交わり、別れて、広がる。アトリエ劇研はそんな「広場」のような場所であって欲しい。そのことばをギリシア語に訳すと、東京のとある劇場の名前になるのが悔しく思われるほどに、わたしはそう思っています。
 わたしは、一人でも多くの方が、創る人も観る人も、その好奇心と想像力を巡らせられるような場所になるために、微力ながら力を尽くします。
2011年8月9日 アトリエ劇研ディレクター 田辺剛