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笑の内閣
第23次笑の内閣『ただしヤクザを除く』

作・演出|高間響

文・野村明里



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第23次笑の内閣『ただしヤクザを除く撮影:松山隆行


主宰の高間響率いる笑の内閣は、表現規制問題や風営法など、現代社会に渦巻く社会問 題を題材に数々の風刺劇を作り続けてきた劇団である。そして今回取り上げたテーマは「人 権」、とりわけ「ヤクザに対する人権侵害」である。日本国憲法が保障する基本的人権は、 すべての人が生まれながらにして持つものだとされている。しかし、暴排条例が全国で施 行されて以来、子供を保育園に入れることができない、銀行口座も作れない、というよう に、ヤクザから人権が奪われつつある、という問題を「ピザ屋がヤクザにピザを売る/売 らない」という一見些末に見える身近な事柄を題材に描いた。
そのあらすじは以下のようなものである。とある宅配ピザチェーン、ピザマッチョのエ リアマネージャー住吉(横山清正)は、広島県警の刑事稲川(由良真介)に呼び出され、 常連客である工務店への販売を断るように警告を受ける。その工務店は実は暴力団のフロ ント企業であったために、販売すると「暴力団排除条例」に違反するということであった。 しかしその日、ヤクザからのピザの注文をすでに受けており、間もなく 3 代目高間一家の 構成員の清水(髭だるマン)が直接店に受け取りに来る、という状況である。そのときは パートの店員の俊恵さん(森田祐利栄)が清水を大人しく帰したのだが、ピザマッチョと ピザを信じ、誇りを持つ店長の山口(しらとりまな)はピザを自らテイクアウトし、清水 に内緒で手渡しするようになる。

笑の内閣㈰.jpgそんな中、清水はピザを買うのは自分の子供がそのピザを楽しみにしているためだと話 す。また、自らの恵まれない生い立ちとヤクザとしてしか生きることのできない境遇につ いて語る。清水の人情に触れ、胸を打たれる山口。あくまでも警察の指導に忠実に、条例 の遵守を徹底しようとする住吉。ここに新たな視点をもたらすのがバイトの店員の松葉(山 下ダニエル弘之)である。松葉もヤクザにピザを手渡しするようになる。しかし彼が山口 と異なるのは、動機が決して「情」に因らないという点だ。彼曰く、ヤクザは人間のクズ だが、人権は天から平等に与えられるものである以上、「クズにも人権がある」、というこ とである。清水の人間性の善悪にかかわらず、「人権」のためにピザを売るのだ。


笑の内閣㈫.jpgしかし劇の終盤、「子供のため」にピザを買っているなどというのは真っ赤な嘘で、ピザ のおまけに付いてくるカードの転売をする目的であったということが明らかになる。結局 は清水はやはり「クズ」、悪人であった、と観客に思わせる。その事実に突き放された山口 は、「それでも、ピザは食べたのか?」と尋ねる。清水の答えは、「食べた」。そして最後に はヤクザから足を洗うように言う山口に対し清水は「お前が雇ってくれるのか?」と問う が、山口は言葉を濁す。ヤクザ上がりの人間を「誰も受け入れてはくれない」のだった。 人間には人権がある、ただしヤクザを除く、というわけである。


さて、「ヤクザの人権」について考えるとき、キーとなるのは劇中の松葉の視点、すな わち「人間性の善悪にかかわらずすべての人間に人権がある」という主張である。改めて ハッとさせられるこの前提をクリアに捉えるには、清水は極悪非道、共感不可能な「悪人」 である必要がある。もちろん、子供のためと偽って山口の善意を利用するような嫌な奴で あることは間違いないのだが、果たして私たち観客は彼に対して一切の同情を持たずにい られるだろうか?彼はピザを「食べた」のだ、しかも「うまかった」らしい。加えて彼の 幼少期の「河童」のエピソードはどうやら真実らしい。私たちは自分が思うよりも多分に 「優しい」から、ふとした隙間にも「情」は入り込んでくる。僅かでも道徳心と抗いがた い事情を持つ彼は、同情の余地のない完全な悪者であるとは言い難い。この時、本当の意 味での「悪人」、共感不能な「クズ」は、どこにもいない。ヤクザである清水も、勤勉な店 員たちも、店長も、それぞれに事情を持ち懸命に生きる人間である。これでは本来的な意 味での「人間性の善悪を問わない人権」の如何、という問題はぼやけてしまう。ならば、 清水はピザを捨ててしまえば良かった。河童の話なども真っ赤な嘘ならば良かった。

安易なハッピーエンドに着地させずに、何も解決させないまま問題だけを浮き彫りにす る終わり方、また、問題に対する役それぞれの視点をバランスよく提示し、観客に多角的 な問題意識を与えることができたことは評価できる。演劇を通じてアクチュアルな社会問 題を提起することは意義深い。しかしながらどこまでも戯曲を重視した作りであり、一演 劇作品として見たときに、演出の単調さや演技の水準のばらつきがあることは否めない。 各回毎に配役が替わるキャスティング方法も、集客面でのメリットは大きいけれども、俳 優の負担や各回の完成度をキープするということを考えると、余程熟達した俳優を起用し なければ難しいだろう。


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第23次笑の内閣『ただしヤクザを除く撮影:松山隆行

(2016年12月1日掲載)

野村明里
俳優。同志社大学文学部美学芸術学科卒。在学中より映像・舞台問わずフリーで活動。
主な出演作に、京都芸術センター演劇計画Ⅱ『新・内山』、
2016年アトリエ劇研スプリングフェス参加作品:居留守『ベルナルダ家』等。

アトリエ劇研創造サポートカンパニー|笑の内閣

第23次笑の内閣『ただしヤクザを除く』

作・演出|高間響
出演

▼桜組
ピザ屋店長の山口さん…しらとりまな
エリアマネージャーの住吉さん…瓜坂勇朔
フリーターの工藤さん…松田裕一郎
バイトの松葉さん…山下ダニエル弘之
パートの俊恵さん…森田祐利栄
組対4課の稲川さん…丸山交通公園
ヤクザの清水さん…髭だるマン

▼蓮組
ピザ屋店長の山口さん…しらとりまな
エリアマネージャーの住吉さん…横山清正
フリーターの工藤さん…丸山交通公園
バイトの松葉さん…山下ダニエル弘之
パートの俊恵さん…森田祐利栄
組対4課の稲川さん…由良真介
ヤクザの清水さん…髭だるマン

▼菊組
ピザ屋店長の山口さん…土肥希理子
エリアマネージャーの住吉さん…横山清正
フリーターの工藤さん…丸山交通公園
バイトの松葉さ ん…下楠絵里
パートの俊恵さん…山下みさお
組対4課の稲川さん…藤井直樹
ヤクザの清水さん…髭だるマン

日程
2016年6月22日(水)~7月3日(日)

6月22日(水)19:10 桜
6月23日(木)19:10 菊
6月24日(金)19:10 蓮
6月25日(土)14:30 蓮①/18:40 桜
6月26日(日)11:00 桜②/18:40 菊
6月27日(月)14:00 蓮/19:10 菊
6月28日(火) 休演日
6月29日(水)19:10 菊
6月30日(木)19:10 蓮
7月1日(金)19:10 菊
7月2日(土)13:00 桜/17:30 蓮
7月3日(日)11:00 菊/15:30 桜

表現規制問題やネット右翼、風営法問題、女性差別問題など
数々の社会問題を嘲笑ってきた関西きってのアナーキー劇団、笑の内閣。
今度のテーマは、ヤクザの人権?!
保険も入れん、家も借りれん、銀行口座も作れん、こどもは幼稚園から入園拒否…。
いくら悪党相手だからって、好きでヤクザになったからって、ヤクザに人権は認められないのか…?
笑の内閣最新作は、暴力団対策法や暴力団排除条例によって引き起こされる「ヤクザに対する人権侵害」を描く、良い子のための人権啓発コメディ!

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