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田中遊|正直者の会『戯式vol.6』

彼の孤独は

作・演出・出演|田中遊

文・小谷彩智



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正直者の会『戯式vol.6』坂根隆介(ドキドキぼーいず)

 役者は舞台に出る瞬間、それまでの恐怖が消え去る。
 しかし一人芝居とは、舞台の上に己ひとり。客席には大多数の目。これを怖いと思うか気持ちいいと思うのか。
多くの場合、演劇とは複数の出演者がいるので、誰かがセリフを忘れたり演技中に役者の想定外のことが起こった場合、周りが助け舟を出してくれる。なんなら、トラブルなどなかったかのように見せることもできるし、そのトラブルさえもアドリブとして発展させることができるかどうかが、共演者の力量が問われるところだ。

正直者の会『戯式vol.6』坂根隆介(ドキドキぼーいず)

IMG_2594.jpeg しかし田中遊は舞台にひとりだ。しかも舞台上にいる「相手役」はラジカセ3台とiPad。こいつらは、スタートボタンを押してしまうと止まらない。いちばん上手のラジカセから聞こえるのは「自宅の田中遊」の声。その次に置いてあるラジカセからは「稽古場の田中遊」その次は「運転中の田中遊」iPadからは「河原にいる田中遊」。田中自身がボタンを押すと順番に喋り出し、四つの機械に録音された音声と生身の田中遊が発する言葉が生きた会話の掛け合いとして舞台上に成立するしくみになっている。まるで田中遊が五人いるかのようだ。でも四人の「機械音声田中遊」の、それぞれ個性的なキャラクターに生身の田中自身が翻弄されている。一人芝居というより相手役が機械の五人芝居。止められないし止まらない。生身の身体が圧倒的に優位なはずだが、田中が機械音声四人の投げかけてくるセリフに翻弄されているように「演じて」いる。この音声を全て作ったのは他ならぬ田中自身であるはずなのに。自分の声を録音し、偶発的な会話のように構成するには、制作の段階から相当な集中力が必要とされ、上演時には一瞬のミスも許されないはずだということがわかる。機械音声に想定外のトラブルが起こった場合には、その時こそ生身の田中自身の力量が試されるだろう。
 彼の一人芝居の魅力とは、そういった舞台の緊張感を一身に背負い、背負いながらもそれをどうにでも料理できる安定感を客に与えているところであろう。

正直者の会『戯式vol.6』坂根隆介(ドキドキぼーいず)
IMG_2368.jpeg 「戯式vol.6」は三部構成になっており、第一部がこのラジカセを駆使した「第二回田中会議」。第二部は俳優広田ゆうみをゲストに迎えての「古事記」の朗読。第三部は「有線人種」と「無線人種」という二種類の人間が存在する世界の差別と区別を描いた「有線の星」と題された物語を、田中がまたもやiPadの音声アプリを駆使してひとりで上演するというもの。
全体に通してテーマになっているのは彼自身の境遇につきまとう孤独感だと思う。「田中会議」では最後に自身がひとり取り残されて終わるし、現代語訳を交えて朗読した「古事記」も、男女の神の愛憎とすれ違いの物語であるし、「有線の星」は主人公が区別と言いながら差別され、劣等感を抱え続けた挙句、何も知らずにテロリストにされてしまう話だった。
 彼は客入れの時間から舞台に居り、「今日はあついですね」「空調いい感じですか?」などと客席に座って開演を待つ私たちに、演技とも日常会話ともつかない雰囲気で話しかけていた。「それでははじめます」と言って袖に引っ込み、再び出てきた彼は、先ほどの彼とさほど変化無いように見える。開演までのあの会話から、彼のショウは始まっているのだろう。瞬時にリラックスするのが難しい舞台の上で彼は自由にしゃべれるのだ。それほどまでに彼は舞台というものの空気感をひとりで操ることができ、知らぬ間に観客を引き込むことができるので、観ているこっちも油断してしまうほど、演技と現実の境が曖昧だ。彼は舞台の恐怖など感じていないのだろうか。

 しかし、今回の「戯式」を観て思ってしまった。一人芝居のもうひとつの大きな魅力は、ひとりの役者のあらゆる魅力が一度に垣間見れることではないだろうか。取り替えることのできない己の身体を駆使し、そのなかで何かに足掻く姿こそ表現ではないだろうか。また、ひとりの人間の意外性を一瞬にして見せつけられた瞬間にこそ、観客はその役者自身から目が離せなくなってしまうのではないだろうか。これは一人芝居に限ったことではないが、ないからこそ、たとえ一人芝居でも「田中遊による田中遊」だけではない、「ブレた部分」が観たい。
 幕間に彼によるトークや機材の説明が入るわけだが、私はその時に田中が何気なく発した孤独でばかばかしいやりとりがもっと観たくてたまらない。その場でマイクで録音した音声が、時間差でリフレインされるというアプリを使うと、会話になるという説明がされたわけだが、そのとき彼はおちゃらけて『おはよう』「好きだよ」『うれしい!』というわけのわからないやりとりを声色を変えて即興で作り説明してくれた。なんともこのでたらめさが楽しそうで「こういうばかばかしいのもいっぺんやってみたいんですよね。」と照れたように言う彼に、この日一番の魅力を感じた。
 次観るのであれば、そんな彼の完成された「より個人的なひとり戯び」が観たい。

(2016年8月28日掲載)

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正直者の会『戯式vol.6』坂根隆介(ドキドキぼーいず)

小谷彩智
劇作家。近畿大学芸術学科演劇芸能専攻卒。大学では主に役者として演技について学ぶ。母校である鴨沂高校の校舎建替問題を題材に執筆した「S.」が2014年京都演劇フェスティバルで上演された。
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アトリエ劇研アソシエイトアーティスト|田中遊

『戯式vol.6』

作・演出・出演|田中遊
ゲスト|広田ゆうみ(俳優)

日程
2016 年7月23日(土)〜7月24日(日)
7月23日(土)15:00/19:30
7月24日(日)15:00

俳優1 人、ラジカセ4台。
それぞれのスピーカーから「過去の記録、時間」がセリフにBGMに環境音になって
「今の舞台空間」に注ぎこまれ、男はそれを攪拌する・・・
<芝居?詩の朗読?ラップ???>
それぞれ個性的な田中遊一人作品とゲストコーナーを詰め合わせました。

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