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はなもとゆか×マツキモエ『WORMHOLE』

かわいい最強論 —彼女が足を高く上げる理由

構成・演出 松木萌
振付 花本有加 松木萌

文・楠 海緒



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はなもとゆか×マツキモエ『WORMHOLE』撮影:山口 真由子


かわいいということ、ときめくようなこと、満ち足りた気持ちになること。そいういうことを分析したり理屈を考えたりすることは、少し無粋な気がして、ほんの少しためらいがある。

これは批評を目指して書かれた文章である。
はなもとゆか×マツキモエ『WORM HOLE』を観た。
劇場に入ると、舞台には透明なビニールで作られた巨大な風船のようなものが置かれている。風船の入り口は舞台のはけ口と繋がっており、トンネルのように行き来することができる。中には赤いスカートをはいた一人の女性が立っている。暑く息苦しく思える状況をものともせず、祈るように、可憐に、それでいてたくましく。
ビニールの外側には緑のワンピースを着た女性がふわふわと歩く。軽やかでありながら、何か別のことを考えているような表情が印象に残る。揺れる髪の毛とワンピースの裾。

私はこの時点でとても満足だった。かわいい。「女の子」という、その概念のみで絵になるような、完結できるような鮮やかな提示が、私にとって非常に魅力的だった。みた事がないのにみたかったようなものが目の前にあった。

開演すると、明らかに宇宙人を意図したかのように思える二人の女性が現れる。物理的で科学的な話を「宇宙人のような」節回しで語りだす。衣装もメイクもアクセサリーも、すべてにこだわりがみられ、非凡なお洒落さ。おまけにスニーカーの底もぴかぴか光る。たちまちビニールの中の女性が卵から生まれるみたいにして、その中から出てくる・・・。
以降、一つの作品の中で次々と異なる色がみせられる。私にはそのどれもが確かにかわいかった。無音の中、緊張感を持って踊られる静かで力強いデュオ。運命を信じる女の子が恋の喜びを謳歌する、ポップで晴れやかなデュオ。開場中に出ていた風船と同じ素材の大きなビニールとともに踊るソロダンス。

私はどうしようと思った。「かわいい」とはどういうことか。私から簡単に発されるそれは、共通の概念として用いるにはあまりにも漠然としている。私はこの満足を、広く理解できる言葉に分解しなければならない。

はなもとゆか×マツキモエ『WORMHOLE』撮影:山口 真由子
WH-379.jpgその時、舞台上で高く上げられた足に目が留まる。天井に向かってピンと伸びたつま先、それを支える身体、真剣なまなざし。すべてのバランスが整って、圧倒的な美しさであった。身体、髪の毛、衣装、そしてビニール、それぞれが動き光を反射することで、それ自体に留まらずそのまわりの空間をも揺らす。
ビニールは目に見えないものを見えるようにする媒介であった。ビニールに光が当たれば、そこに面が生まれる。片足のつま先で掬われ、床から天井に向かって広げられたそれは大きなスクリーンのようであった。足を高く上げることは、脚自体の美しさをみせるに留まらず、脚によって切り取られた空間にも美を与える。ビニールによって可視化された床と天井の間に映る光をみて、そう思った。


なぜ足を高く上げるのか、なぜ足を高く上げると美しいのか。それを考えることと、私の感じた作品全体に漂う「かわいい」を考えることは、同質であることに気が付く。女の子という提示もビニールも宇宙人も、理屈を読み取る余地を残しながら、それらを大きく上回る感動があった。スニーカーの底がぴかぴか光るのは、ブラックボックスの舞台でその存在を浮き立たせるためのものであり、非日常、宇宙、未来といった印象を与えるなど様々な役割が推測される。しかしそれ以上に、ぴかぴか光るLEDが仕込まれたスニーカーはとにかく楽しくてかわいいのだ。足を高く上げるとは、そういうことだと思った。

作品は非日常の世界から、運命を信じる女の子が大好きな人と暮らす日常へと着地する。生活の中でなされる動作が振りつけとして踊られる。ビールの栓を抜くこともごはんをよそうことも、足を上げる事もダンス。相対的なもの、理屈のようなものが排除された、主観的で感情的な日常の美しさ。一貫して、デコラティブに配置された沢山の「かわいい」が、踊る身体というシンプルで強い作品の根幹に回収されていく。共通点は理屈では語れないということ。この構造こそがダンスというもの、美というものを見つめ直すための一つの装置であり、この作品の要なのではないだろうか。

作品は再び、宇宙を思わせるような力強く抽象的な世界に出発する。ワンルームから宇宙へ、最高の密度をもって作品が広がっていく、その瞬間の輝き。言葉で説明することができないその輝きを、踊る身体は語ることができる。その語りに耳を傾けることが、ダンスを観るという体験の一つなのかもしれない。

(2016年7月9日掲載)

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はなもとゆか×マツキモエ『WORMHOLE』撮影:山口 真由子

楠 海緒
俳優。京都市在住。同志社大学文学部国文学科卒業。http://miokusunoki.tumblr.com/

アトリエ劇研創造サポートカンパニー|はなもとゆか×マツキモエ

『WORMHOLE』

構成・演出 松木萌
振付 花本有加 松木萌
出演 花本有加 松木萌
   伊藤彩里 山田春江

日程
2016 年6月3日(金) ~ 6月6日(月)
6月3日(金) 19:00
6月4日(土) 18:00
6月5日(日) 14:00/19:00
6月6日(月) 16:00

記憶はやがて質量を持ち重力を持つ。引き寄せられた全てを纏って、裸足で駆けて行く。

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