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劇団しようよ『あゆみ』

死に抗する演劇

〜柴幸男(ままごと)・作  大原渉平(劇団しようよ)・演出  『あゆみ』〜

文・ 城間典子








ままごとの柴幸男作『あゆみ』は、ある女性の一生についての物語だが、劇団しようよは、今回、主人公のあみが生まれてはじめて立ち上がり歩行するその瞬間から、幼少期、青春時代を経て結婚するまでの人生を、男性の俳優のみによって上演した。
 俳優が自分ではない誰かや何かになることを観客が了解する中で、彼らの赤ん坊や、小学生の女の子、犬としての身振りは、抵抗なく客席に伝達される。しかしそれだけに、広い肩に背負う小さな赤いランドセルや、野太い声による女性の言葉、簡単なつくりの犬の耳をつけたひとりの人間に、俳優の身体と役とのずれが純粋に表れている。そのようなアンバランスを内包したまま物語は進行していくのだが、あみの人生のある途上で、ひとりの俳優(の、画用紙に書かれた文字)によって、アンネ・フランクと、2012年にルーマニアで殺害された女子大生について語られるシーンが唐突に挿入される。なぜ彼女たちは死ななくてはならなかったのかという素朴な問いが舞台上にこつ然と現れる。
「養老天命反転地」などで知られる荒川修作とそのパートナーであるマドリン・ギンズは、人間の平衡感覚や遠近感を狂わせ、刺激することで、肉体の持つ力を増幅させる建築を手がけた。彼らは次のような態度を示す。「『生きなければならない、そして死ななければならない』という宿命を単に耐えることを乗り越え、多層の軌跡に沿って、生きていることがしていることを通り抜けてみるのである。生きているとはいかなることなのかを知らないことが、死ぬとはいかなることなのかを決めるのを不可能にしている」*。荒川とギンズは、傾斜や迷宮などの装置によって位置的、視覚的にアンバランスにされた肉体の中に、「何が生きていることを組み立てているのか」を厳密に見ようとした。それらが人間の「死」という宿命を反転させようとする建築的な実験とすれば、劇団しようよの『あゆみ』は、ひとりの人間の軌跡(人生)を記録した優れた戯曲を用いながら、俳優と役、現実と虚構との乖離の中に「何が生きていることを組み立てているのか」を見ようとした、「死」の克服のための演劇的実験である。


アンネ・フランクと女子大生について述べられた後の俳優たちは、あみの人生という以上に、投げかけられた「死」への応答として、歩行を続ける。「あゆめなかった女性」の(いささか強引な)介在により、その後の時間はもはやあみだけのものではなく、誰かであったかもしれないものとしてイメージされる。時間が不特定のものに開かれたそのとき初めて、俳優と役とのあいだ、そのぐらぐらと揺れる不均衡の狭間から、肉体そのものが舞台上に出現する。肉体を支配していた「ひと」(せめぎあう俳優の身体と役)から解放され、何者でもなくなった肉体そのものが、舞台上を縦横無尽に駆け回り、誰としてが明らかでない身振りが、ただ反復され、かき混ぜられていく。ひとりの人間が、運動の軌跡としてのみふるまおうとする肉体と、それでも固有であろうとする「ひと」とのあいだでバランスを取ろうとしたとき、普段「誰であるか」というアイデンティティに隠されている、生きていることの原子が見えてくる。

引用・参考文献
*荒川修作・マドリン・ギンズ著、工藤順一・塚本明子訳『建築-宿命反転の場―アウシュヴィッツ-広島以降の建築的実験』1995年、水声社 p22

参考
ままごと公式HP「戯曲公開プロジェクト」の『あゆみ(長編)』
http://www.mamagoto.org/drama.html
2015年6月13日閲覧。

劇団しようよ 3ヶ年プロジェクト《movement2015-2017》vol.1
アトリエ劇研共催公演 『あゆみ』
2015年5月29日(金)19:00 アトリエ劇研にて観劇

劇団しようよ

『あゆみ』

3ヶ年プロジェクト《movement 2015-2017》vol.1

作 柴幸男(ままごと)
演出 大原渉平(劇団しようよ)
出演
楳山蓮(象牙の空港)
門脇俊輔(ニットキャップシアター)
金田一央紀(Hauptbahnhof)
志田なおき
高橋紘介
土肥嬌也
藤村弘二
大原渉平
吉見拓哉(劇団しようよ)
あごうさとし(アトリエ劇研ディレクター)


日程
2015年5月28日(木)〜31日(日)
5月28日(木)19:00
5月29日(金)19:00
5月30日(土)15:00 / 19:00
5月31日(日)11:00 / 15:00



movement【ムーブメント】
運動、活動、身ぶり、移動、変化、進展。

劇団しようよ、アトリエ劇研に4年ぶりに登場。京都でしかできない、アトリエ劇研でしかできない〈実験〉に3年連続で挑戦します。
初年度の2015年は、ままごと・柴幸男さんが紡いだ〈少女の一生〉の物語を男性キャストのみで上演。個性豊かな男優陣の競演、劇伴音楽の生演奏、アトリエ劇研ディレクター・あごうさとし氏も登場して、かつてない『あゆみ』をお届けします。

4月
山下残『大行進、大行進』
アソシエイトアーティスト・ショーケースA

アソシエイトアーティスト・ショーケースB

5月
ドキドキぼーいず
田中遊/正直者の会
劇団しようよ

6月
キタモトマサヤ/遊劇体

7月

8月
西尾佳織/鳥公園
多田淳之介/東京デスロック
Hauptbahnhof

9月
木ノ下裕一/木下歌舞伎
はなもとゆか×マツキモエ

10月
したため
キタモトマサヤ/遊劇体

11月
桑折現
250Km圏内
努力クラブ

12月
あごうさとし
ブルーエゴナク

1月
田中遊
きたまり

2月
笑の内閣

3月
山口茜
笠井友仁
村川拓也
岩渕貞太